2024年12月2日。青森県立美術館での「鴻池朋子展 メディシン・インフラ」が終了して2ヶ月ほどした頃、美術館の前庭に展示されていた赤い狼ベンチを、アーティストの藤沢レオさんご協力のもと、彼の車で青森県八戸から北海道苫小牧市へフェリーで運びました。青森の個展は本州最北端での展覧会だったので、ぜひその先の津軽海峡を挟んだ北海道に、なんとか作品を“飛び火”できないかなと思っていろいろと探っておりましたら、藤沢さんの地元であり出身校でもある苫小牧市立樽前(たるまえ)小学校から設置場所のご提案をいただき、その小学校の新しく明るい図書館に、たくさんの本に囲まれて狼ベンチを置くこととなりました。藤沢さんは鉄などの金属、木、石なども扱う彫刻家で、子どもたちと「びとこま」というアート活動も長年行ってきています。全校生徒18名、居心地良い図書館は市民にも開放されており、一般の方々も利用することができるスペースです。
翌12月3日の朝8時半。全校朝会が終わった直後に、校長先生のお計らいで、サプライズで狼ベンチが子どもたちにお披露目されます。狼ベンチはいきなり子どもたちに取り囲まれ、触ったり、腰掛けたり、頭に跨ったり、尻尾を引っ張ったりと大歓迎を受けました。
樽前小学校のある場所は、樽前山(たるまえさん)の麓の広大な森の中。山の北側には支笏湖(しこつこ)があり、樽前山は活火山でたまに白い水蒸気も上がっているのが見えます。小学校の近くには「樽前ガロー」という珍しい地形の渓谷があり、私は冬にはそのガロー沿いに続くブナと白樺の落葉した明るい森を散策したり、近隣には、北大の人類学研究者の友人が、ウサギの罠を掛けたり鹿の猟をしたり山菜やキノコを取りに連れて行ってくれた森があります。
またこの裾野には、ポツポツと離れてユニークな人々も住んでおり、森の動植物のことをよく知る魔女のような女性の家で話を聞き、美味しいご飯をご馳走になりました。昔は牧場もやっていたようですが、脚が少し不自由になってからは、家の大きな窓から四季の移り変わりや鳥や動物を眺め、その長年培ってきた自然からの叡智を訪れる人に教えてくださいます。私はそのお礼に彼女の古着で指人形をつくったりしました。するとまた彼女から何か手渡されて帰ってくるような、そういうやりとりが続いています。
図書館に狼ベンチが置かれてから半年経った今年の5月の初旬、子どもたちは先生に頼んで狼ベンチを、校庭の真ん中にある樹齢100年を超えるエゾヤマザクラの下に連れ出し、一緒にお花見をしたそうです。狼はもう彼らの仲間の一匹のようです。北海道という乾燥した空気と平たい丘が続く地形は私の体に合い、通うごとに土地と親しくなっていくようで、これから何かありそうな予感がしてなりません。養蜂家、場搬(ばはん)の馬を飼う方、ガラクタ屋のご主人、小さな手芸店を営む女性、新しいフリースクール、墓地巡り、砂澤ビッキの中川研究林、北海道と彫刻家と木や石、近い国境、幹線道路を歩くのは私だけ、車道横の繁る草むら、開拓、など興味深い出会いが待っていそうで、ベンチもまたここから北海道を北へ北へと移動し、どこかご縁のある人と場所へとリレーされていくビジョンも見えます。作品は軽トラでも、ワンボックスでも入るサイズ。もし迎えにきてくれたら、狼ベンチを旅に連れ出すことも簡単です。そんなことを考えたりしています。
鴻池朋子
>>鴻池さま
こんにちは。
今朝、樽前小学校の校長先生、教頭先生と打ち合わせをし、
先ほど施設管理の市教育委員会の許諾も得ました。
12月3日はフェリーが苫小牧港到着後、樽前小学校に真っ直ぐ
搬入ができることになりました。
教職員が出勤する8:00に小学校にいき、搬入。(一時置き場)
8:15~ 児童登校
8:30頃~ 全校朝会
朝会中に図書室オープンスペースに設置
朝会終了後に設置場所にて作品お披露目、鴻池さんご紹介
という流れになりそうです。
先生方も大変喜んでいて、児童がベンチに座りながら本を読む
姿が眼に浮かぶとおっしゃっていました。
